夏の暑さも落ち着き、ようやく秋の訪れが感じられる季節となりました。秋といえば
「実りの秋」。沢山の旬の食材が店頭を彩ります。
中秋の名月(十五夜)は、芋の収穫を祝う意味を込めて「芋名月」とも呼ばれ、里芋料理の
「きぬかつぎ」などを備えます。今回は、秋の収穫を代表する「里芋」をご紹介します。
里芋の産地と歴史
里芋はインド東部からインドネシアの熱帯地域が原産とされています。日本では縄文時代の中頃から栽培されており、人々の住む里で栽培されるようになり、それまで山で採っていた山芋と区別して、「さといも」と呼ばれるようになりました。里芋は種ではなく、芋で増えることから、子芋がたくさん増える=子孫繁栄の縁起物とされ、正月料理や節句の料理には欠かせないものです。
国内では千葉県、宮崎県、埼玉県で多く栽培されています。旬は、種類により多少異なりますが、秋から冬とされています。
里芋の種類
1)土垂(どだれ)
もっともポピュラーな里芋で、小ぶりの里芋です。特有のぬめりがあり、肉質も
粘りがあり煮崩れしにくいのが特徴です。貯蔵性も高く、一年中出回っています。
2)石川早生(いしかわわせ)
土垂と並び代表的な里芋です。早生品種で晩夏から収穫が始まり、子芋は小ぶりで、蒸したり茹でると手で簡単につるっと皮がむけます。煮物やきぬかつぎ(皮ごと蒸して塩を振って食べる)にされることが多い品種です。
3)筍芋(たけのこいも)
筍のように地上に頭を出している姿から名づけられました。京芋とも呼びます。
肉質がしっかりしており煮崩れしにくく、円筒形で大きいため皮がむき易く、煮物に使いやすい品種です。
4)海老芋
海老芋は唐芋(とうのいも)と呼ばれる品種の里芋の一種で、土寄せして折れ
曲がった海老のような形にすることから、海老芋と呼ばれています。肉質がきめ
細かく、煮崩れないので煮物に向いています。栽培に手間がかかることや、味が優れているので、高級品として扱われています。
5)八ツ頭(やつがしら)
八ツ頭 は末広がりの「八」と、子孫繁栄や人の「頭」になるようにという縁起物として、お節料理によく使われます。全体に形が入り組んでおり、皮がむきにくいですが、肉質がしっかりしていて煮ると粘りが少なく、ほくほくとした食感が特徴です。
里芋の栄養
芋類は高エネルギーなイメージがあり敬遠されがちですが、里芋は低エネルギーで、積極的にとりたい栄養成分も多く含まれています。
1)低エネルギー
芋類の中では、里芋は最も低エネルギーで、さつま芋の4割、じゃが芋の8割のエネルギー量です。
(食品100gあたり)
(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
同じ炭水化物源の穀類・ご飯と比べても、里芋はご飯の1/3のエネルギー量です。(食品100g比較)
また、芋のお惣菜も比較してみました。里芋の煮物の方が3割エネルギー量を減らすことができます。
(1食あたり)
(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
2)カリウム
カリウムは余分なナトリウムや水分を体外に排泄してくれる働きがあるため、高血圧予防に良い成分です。
平成29年度の国民健康・栄養調査の結果によると、どの世代も目標量には届いていません。
例えば、ご飯・わかめの味噌汁・豚肉のしょうが焼き・サラダのカリウム量は、1食あたりの目標量に足りていませんが、味噌汁の具に里芋を2個加えると、男女とも目標量を満たします。
カリウムは野菜や果物、海藻、芋類に多く含まれる成分で、里芋は芋類の中では含有量が最も多く、全食品の中でも多いグループに含まれます。手軽に普段のメニューに追加するには下処理の要らない冷凍里芋(後述)を上手く活用するのもお勧めです。
(1食あたり)
※摂取目標量:18歳以上(日本人の食事摂取基準(2015年版)より)
3)食物繊維
食物繊維は、消化酵素で消化されずに小腸を通過して、大腸まで届く成分です。便秘の予防をはじめとする整腸効果だけでなく、血糖上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下など多くの働きをします。
里芋のぬめり成分は水溶性食物繊維の一種であるガラクタンとグルコマンナンです。ガラクタンには免疫力を上げる効果や脳細胞の活性化も期待されています。
毎年行われる国民健康・栄養調査によると、食物繊維摂取量は1960年代より目標量の20gを割り込み、2000年代からは14~15gの間で推移し目標量に届いていない状況です。
食物繊維といえば野菜や海藻、きのこ、果物に多く含まれるイメージがありますが、里芋にも多く含まれています。
例えば、里芋の煮物小鉢1皿の食物繊維量は、野菜サラダ1皿の約3倍、付け合せの千切りキャベツの約5倍の食物繊維が含まれます。食物繊維不足の解消にも里芋はとても有効です。
(1食あたり)
(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
里芋の調理のポイント
里芋をおいしく食べる調理のポイントです。
●選び方
里芋はふっくらと丸みがあり、表面に傷がないものを選びます。持った時にずっしりと重みを感じるものが良いです。
●保存方法
常温の風通しの良い冷暗所で、土付きのまま洗わずに新聞紙などでくるんで保存します。1ヶ月程保存可能です。里芋は暖かいところで採れるものなので、冷蔵庫に入れると低温障害を起こし早く傷みやすくなります。
●下処理
1)皮むき
里芋は皮をむくのが手間だったり、手がかゆくなるということも言われていますので、皮むきのコツをご紹介します。
皮むきをしやすくするためには、里芋、包丁ともによく乾かした状態で行うことがコツです。里芋をたわしなどで洗い、土を落とします。しっかり水気を拭きとるなどでよく乾かし、それをよく乾いた包丁でむくと、ぬめりが抑えられむき易くなります。また、手がかゆくなるのもこのぬめり成分の「シュウ酸」が原因なので、乾いた状態で皮むきをすることで手もかゆくなりません。
あるいは、皮つきのまま茹でて熱いうちに水にとると、手でつるっと簡単に皮をむくことができます。用途によってはこの方法も簡単ですので是非お試し下さい。
2)ぬめりとり
里芋のぬめりが出すぎてしまうと、味が染み込みにくくなってしまいます。煮物などで使う場合は、下茹でをするとよいでしょう。
里芋のぬめりには水溶性食物繊維が多く含まれているので、程良くぬめりを取リましょう。
里芋の皮をむいて塩でもんで水洗いし、「米のとぎ汁」で茹でます。米のとぎ汁には、里芋のぬめりを抑える働きがあります。この方法で下茹でした里芋は、1ヶ月程冷凍保存することができます。
3)冷凍里芋(市販品)について
面倒な下処理が済んでいる「冷凍里芋」が店頭に並んでいます。買い置きしておくと、煮物や汁物を作るのにとても便利です。冷凍里芋は解凍せず、凍ったまま調理しましょう。解凍すると里芋から水とともにぬめりが流れ出してしまい、ほっくりした食感や粘り気がなくなってしまいます。
おすすめレシピ
里芋は煮物に多く使われますが、今回はちょっと小腹が空いた時のおやつやおつまみにできるレシピをご紹介します。このレシピでは1人分で約2.5個分の里芋が食べられます。また、里芋がたっぷり食べられる上に、1人分100kcal以下とエネルギー量控えめです。味付けは塩昆布の旨味と塩分、干海老の香ばしさで、冷めても美味しく頂けます。
●里芋のおやき
【材料】(2人分:5㎝の小判型6枚分)
・里芋:正味200g(5~6個)
・塩昆布:大さじ1杯強(6g)
・干海老:大さじ1杯(3g)
・葉ねぎ:大さじ1杯(6g)
・ごま油:小さじ2杯
【作り方】
①里芋をざっと洗い、皮をむかずに10~15分程竹串が通るまで茹でます。茹で上がったら、皮をむきます。(下処理1)参照)
※レンジで加熱する方法
里芋は皮をむかずによく洗い、水気をつけたまま耐熱皿に並べ、ラップをして電子レンジ(600W)で加熱します。加熱時間は、100gで2~3分が目安です。加熱ムラにならないよう、途中で上下をひっくり返しましょう。
②茹でた里芋の皮を手でむき、フォークやマッシャーで潰します。
③②に、塩昆布、干海老、小口切りにした葉ねぎを混ぜ、小判型にまとめます。
④熱したフライパンにごま油を敷き、③を入れ両面に軽く焦げ目がつくまで焼きます。
⑤お皿に盛り、出来上がりです。
【アレンジ】
塩昆布や干海老以外に、チーズやハムでも味付けなしで美味しく頂けます。また缶詰のコーンや枝豆なども食感や彩りが変わり楽しめます。