最近、肉の代用食品として「大豆ミート」が流行し、コンビニやカフェのメニューで目にすることも増えました。これは健康志向の高まりによるもので、「畑のお肉」ともいわれる大豆に含まれる、植物性たんぱく質が今注目を浴びています。今回は昔から日本にある大豆食品の一つ「凍り豆腐」について紹介します。
凍り豆腐とは
凍り豆腐とは鎌倉時代に生まれた日本独特の食品で、豆腐を凍結、低温熟成させた後に乾燥させたものを指します。もともとは「高野豆腐」と「凍み豆腐」の2系統が存在したといわれています。
【高野豆腐】
高野山の僧侶が精進料理として食べていた豆腐が冬の寒さで凍ってしまい、それを溶かして食べてみたのが始まりというもの。
【凍み豆腐】
東北地方の農村で生まれ、保存食として作られていたもの。
戦後、この2つを統一する呼び名として「凍り(こおり)豆腐」という名称が作られましたが、「高野豆腐」「凍み豆腐」「ちはや豆腐(大阪の河内地方の呼び名)」「連豆腐」など、今でも地域によって様々な呼び名が残っています。凍り豆腐は冬の厳しい寒さによる偶然の産物として発見され、昔から保存のきく食材として活躍し、今もなお食べられる食材です。
さらに、平成6年には日本人初の女性宇宙飛行士の向井千秋さんが宇宙へ行った際、宇宙で味わう日本食のメニューの1つとして、凍り豆腐にひき肉、しいたけなどを加えた煮物が採用された歴史もあります。日本の伝統食品である凍り豆腐がNASAで宇宙食として取り上げられたことで多くの人の関心を集めました。このように、凍り豆腐は日本が世界に誇れる食品です。
豆腐との違い
1食当たりの凍り豆腐(1枚:20g)、木綿豆腐(1/3丁:100g)、絹ごし豆腐(1/3丁:100g)の栄養素の比較です。
カロリー | たんぱく質 | 脂質 | 糖質 | 食物繊維 | カルシウム | |
凍り豆腐 | 99kcal | 10g | 6.8g | 0.8g | 0.5g | 126mg |
木綿豆腐 | 73kcal | 7.0g | 4.9g | 1.5g | 1.1g | 93mg |
絹ごし豆腐 | 56kcal | 5.3g | 3.5g | 2.0g | 0.9g | 75mg |
(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)
凍り豆腐は木綿豆腐、絹ごし豆腐と比べると少々カロリーは高いですが、高たんぱく質、低糖質であることが分かります。また、カルシウム量は木綿豆腐の約1.3倍、絹ごし豆腐の約1.7倍と、豊富に含まれています。凍り豆腐は、豆腐と比べて大豆の成分が濃縮されているため、栄養価も高いといえます。
凍り豆腐の栄養
凍り豆腐は「畑の肉」とも呼ばれる大豆から作られているため、大豆由来の栄養成分が豊富です。
・大豆たんぱく質とカルシウムが豊富
たんぱく質とカルシウムが多い食品の代表「牛乳」と比較すると、凍り豆腐1枚(20g)には、たんぱく質は牛乳コップ1杯半分、カルシムは牛乳コップ1/2杯分が含まれています。
(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)
たんぱく質は血液や筋肉など私たちの体の組織を作る栄養素で、特に凍り豆腐に含まれる大豆たんぱく質は、肥満の予防効果をはじめ、血中のコレステロールを低下させる効果や、血圧上昇の抑制効果があると言われています。凍り豆腐にはあわせてカルシウムも多いので、例えば牛乳が苦手な方やあまり乳製品をとらない方、またカルシウムが不足がちな方は、凍り豆腐をうまく利用されるのもおすすめです。
・レジスタントたんぱく質
たんぱく質の中でもヒトの体内で消化されにくいたんぱく質のことを「レジスタントたんぱく質」と言い、凍り豆腐のたんぱく質の約3割を占めています。レジスタントたんぱく質には、「食後の中性脂肪値の上昇の抑制」「HDL(善玉)コレステロールの上昇」といった、脂質代謝の改善効果や、「HbA1cの低下」の糖尿病の改善効果が研究で認められています。また、HDL(善玉)コレステロールの上昇効果が認められた研究での凍り豆腐の食べ方は、1 日 1 枚を、時間や食べ方を定めずに自由に摂食させた研究結果であり、無理なく凍り豆腐を日々の食生活に取り入れることで、改善効果が発揮される可能性が高いことが示されています。
レジスタントたんぱく質は、同じ大豆製品である、豆乳や木綿豆腐、絹ごし豆腐にも含まれていますが、「圧搾」「冷凍」「低温熟成」といった凍り豆腐の製造工程でより増えることが分かっています。効率よくレジスタントたんぱく質を摂るには凍り豆腐が最適といえます。
(参考:石黒貴寛.凍り豆腐の脂質代謝・糖質代謝改 善効果とそのメカニズム,日本食品科学工学会誌 https://www.researchgate.net/profile/Takahiro-Ishiguro/publication/328521133_Influence_of_Kori-tofu_on_Lipid_and_Sugar_Metabolism/links/5f8e28e7a6fdccfd7b6e8260/Influence-of-Kori-tofu-on-Lipid-and-Sugar-Metabolism.pdf )
機能性表示食品(*)の仲間入り
凍り豆腐に含まれている「大豆ベータコングリシニン」の作用機序が認められ、2020年に機能性表示食品として仲間入りしました。大豆ベータコングリシニンには「脂肪酸の分解促進」「脂肪酸の合成阻害」「中性脂肪の吸収阻害」の作用があり、「肥満気味の方のBMIを低下させること、および高めの血中中性脂肪値を低下させる」と機能性をうたうことができます。
*機能性表示食品とは・・・事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を商品パッケージに表示した食品です。販売前には安全性、機能性に関して消費者庁に届け出が必要となっています。
凍り豆腐の利用方法
・保存方法
凍り豆腐は乾物なので保存がきくのも良い点ですが、酸化が早く、匂いが移りやすいので、開封後は使い切るのがベストです。購入後は正しく保存しましょう。
①開封前はパッケージのまま冷暗所保存
常温とは15~25℃くらいを指しますが、その中でも日光や部屋の照明が当たらない「冷暗所」での保存が必要です。未開封なら半年程度持つものが多いです。賞味期限内に食べるようにしましょう。
②開封後はしっかり密閉して冷蔵庫保存
開封後は、空気によって凍り豆腐に含まれる脂質が酸化してしまい、少しずつ品質が低下します。賞味期限内であっても1か月以内に食べるようにしましょう。また、極力空気に触れないように保存袋に入れて密閉し、温度を保つことができる冷蔵庫で保存することが大切です。
・基本の戻し方
調理の前に50度くらいのお湯で戻します。その時、落し蓋をしたり、浸す面を時々変えると、むらなく戻すことができます。10分ほどで軟らかくなるので、その後水気を絞って料理に使いましょう。独特の乾物臭いが気になる場合は、絞った水が透明になるまで、3~4回繰り返し絞ることで臭いがかなり抜け、味のしみこみも良くなるのでおすすめです。
・煮物だけではない!様々な活用法
凍り豆腐の料理と聞くと「煮物」が思い浮かぶかと思いますが、しっかり水気を絞ったものを野菜や肉などの他の具と炒める「炒め物」としても活躍します。凍り豆腐を混ぜると、水分とともに外に出てしまううまみまでしっかり吸い込むので、それぞれの具の味を余すことなくおいしくいただくことができます。
また、水で戻した後に一口大に切り、小麦粉などをまぶして油で揚げる「凍り豆腐の揚げ物」は、もっちりとした食感で唐揚げ風になると人気の調理法です。
さらに、水で戻す前の硬い状態のままおろし金ですりおろすとふわふわとした粉状になり、汁物や和え物など普段の料理にスプーン1杯加えてたんぱく質UPにしたり、小麦粉の代用として、ハンバーグのつなぎ、揚げ物の衣、お菓子の材料などに活用することもできます。開封したものが余っているときにはこのような使い方も如何でしょうか。
このように、「煮物」だけでなく、「炒め物」「揚げ物」などのメイン料理をはじめ、様々な場面で摂り入れることができる食材なのです。
おすすめレシピ
凍り豆腐で作る「お団子」のレシピを紹介します。凍り豆腐を混ぜることで、白玉粉のみで作った団子よりも嚙み切りやすく、小さな子どもからご年配の方まで楽しめるデザートです。また、凍り豆腐を加えることで、子どもの成長や高齢者の低栄養予防に大切なたんぱく質を補うことができるデザートになります。
・凍り豆腐の黒蜜団子
【材料】約8個分
・白玉粉 30g
・凍り豆腐 1枚
・砂糖 小さじ1
・食塩 0.4g
・水 適量
・黒蜜 適量
【作り方】
①凍り豆腐をフードプロセッサーやミキサーにかけ、粉状になるまで細かくする
②ボウルに①を入れ、白玉粉、砂糖、塩を加えてよく混ぜ合わせる
③少量の水を少しずつ加えながら、耳たぶくらいの硬さになるまで捏ねる
④③を1口大に丸めて中央をくぼませ、成型する
⑤鍋に湯を沸かし、④を入れてゆでる
浮き上がってきたら冷水にとり、クッキングペーパーなどで水気を取る
⑥皿に⑤を盛りつけ、お好みで黒蜜をかける
【アレンジ】
団子のトッピングは黒蜜以外にもきなこやあんこなどもおすすめです。
【ひとこと】
お月見といえば「十五夜」が有名ですが、日本には「十三夜」という風習もあり、この時季にとれる「栗」や「豆」をお供えすることから「栗名月」「豆名月」とも呼ばれています。
今年の十三夜は10月18日です。凍り豆腐の材料は大豆、つまり「豆」なので、今年はこのお団子と一緒に月を楽しむのはいかがでしょうか。