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栄養コラム

とうがらし

No.213

2021年9月1日

管理栄養士 若林美和

近年、激辛ブームと言われるほど激辛料理の人気が高まっており、激辛料理を提供するお店はもちろん、家でも楽しめる商品が続々と登場しています。今月は、そんな激辛料理に欠かすことのできない夏が旬の食材「とうがらし」をご紹介します。                                                              

とうがらしとは

とうがらしはナス科トウガラシ属の草木になる実の総称で、味の違いによって大きく2種類に分けることができます。
①辛味種:ピリつく辛さが特長的で香辛料として料理に使用されることが多いです。
     例)鷹の爪、島とうがらし、ハバネロ、ハラペーニョ など
②甘味種:色は緑色のものが多く、辛味はほとんどありません。
     例)ししとう、ピーマン、パプリカ など
一般的にとうがらしというと辛味種を指すことが多いですが、上記②の辛みのない甘味種もあり、野菜として馴染みのあるピーマンやパプリカが含まれます。因みに京野菜の万願寺とうがらしも甘味種に分類され、甘味があり、肉厚で柔らかい果肉が特徴です。
とうがらしは気候に対する適応能力が高いため、世界各地の広い地域でたくさんの品種が栽培され、親しまれています。乾燥したものや調味料では季節関係なく一年中楽しむことができますが、食材としての旬は7~9月です。
今回のコラムではとうがらしの辛味種について、ご紹介していきます。

日本でのとうがらしの歴史

とうがらしは日本に、1543年のポルトガルとの貿易で種子島に鉄砲が伝来した際に一緒に持ち込まれたとされています。(諸説あり)
その頃とうがらしは、既にヨーロッパでは食されており、辛みがこしょうと似ていることから、こしょうという意味の「ペッパー」と呼ばれていました。また、当時日本において、ポルトガルを南蛮、ポルトガルとの貿易を南蛮貿易と呼んでおり、次第にその貿易によって伝来したとうがらしやねぎのことも「なんばん」と呼ぶようになりました。この名残でとうがらしは、現在でも九州地方の一部では「こしょう」、北海道や東北地方では「なんばん」と呼ばれています。
伝来した当初は辛すぎて食べ物じゃないとされていたとうがらしですが、江戸時代初期に七味唐辛子ができたことで、日本でもスタンダードな香辛料となりました。

激辛ブームになる理由

とうがらしを使用した辛い料理を食べた時に気分が高揚したり、また食べたくなったりした経験はありませんか。辛い料理を食べている時のこの状態は、マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚する「ランナーズハイ」と同じ現象が起きています。辛みは味覚ではなく、痛みと同じような刺激として感じるため、辛みを感じるとその痛みを緩和するためにβエンドルフィンというホルモンが脳から分泌されます。βエンドルフィンにより気分の高揚や幸福感が得られ、この感覚をまた味わうために辛い料理を何度も食べたくなり、くせになることから、この効果が現在の激辛ブームを巻き起こしたともいえます。
しかし、頻度や摂取量が過剰になると、胃腸が荒れたり、
アドレナリンという体を興奮モードにするホルモンの分泌が増える
ことによる、心拍数や血圧の急上昇など、体へ悪影響を及ぼす可能性があります。体に負担をかけない程度に楽しみましょう。

とうがらしの特長成分

①食欲増進&体を温める「カプサイシン」

とうがらしにはカプサイシンという辛み成分が含まれており、痛覚や温覚を刺激することで辛みとして感じられます。
カプサイシンがもたらす適度な辛みが舌や胃を刺激し、唾液や胃液の分泌を活発にすることで食欲増進に繋がります。また、カプサイシンには皮膚表面の血管を広げ、体を温めて発汗させる働きもあるので、寒い時期には冷えた体を早く温めることに役立ち、反対に暑いときは汗をかくことで皮膚表面の体熱が奪われ、食べ終わると涼しく感じることができます。東南アジアや中南米など暑い地域で辛い料理がよく食べられているのも、食べ終わった後の涼しくなる感覚を味わうためと言われています。
食欲がない時や、温まりたい時、反対に汗をかいて涼しくなりたい時にとうがらしを適宜活用してみましょう。

②真っ赤な色を呈す「カプサンチン」

とうがらしの特徴でもある真っ赤な色を生み出しているのはカプサンチンで、前述①のカプサイシンと名前がとても似ていますが、全く異なる色素成分です。とうがらしは熟す前は緑色ですが、太陽の光をたっぷり浴びて成長することで緑色の色素が分解され、カプサンチンが生成し、赤くなります。カプサンチンは、にんじんの色素であるβカロテンや、鮭やえびの色素であるアスタキサンチンと同じカロテノイドです。カロテノイドには抗酸化作用があり、老化やがん、生活習慣病などの予防に効果があると考えられていますが、なかでもカプサンチンはこの作用が高いことが報告がされています。

    出典)Nishino A, et al., J. Oleo Sci., 64, 1135-1142 (2015)より一部改変 

また、これらの辛み成分「カプサイシン」と色素成分「カプサンチン」は、油に溶けやすい性質があるので、油と調理すると吸収率が高まります。とうがらしを油と加熱調理しているものとしては、ラー油やペペロンチーノなどがあげられ、これらは風味が良いだけでなく、成分の吸収率も上がっているのです。

とうがらしの身近な使われ方

とうがらしは主に調味料として身近で使われ、世界中で親しまれています。カプサイシンの効果は少量でも期待できるので、料理の味付けやアクセントとしてこれらの調味料を使用してみてください。

おすすめレシピ

先ほど紹介したとおり、とうがらしは調味料が身近で取り入れやすいので、家で簡単に作ることができる調味料「とうがらし醤油」をご紹介します。
このとうがらし醤油は、漬けたとうがらしも食べることができるので、他の調味料よりもとうがらしの特長成分を多く摂取することができます。さらに、とうがらしとは異なる抗酸化成分を含むにんにくを合わせることで、抗酸化作用アップも期待できます。とうがらしの辛みと、にんにくの風味が食欲増進にもつながるので、食欲が落ちている時にもぴったりです。

とうがらし醤油               

【材料】1瓶分(250ml)
・赤とうがらし(生) 5~8本
・青とうがらし(生) 5~8本
・にんにく      1かけ          
・醤油        1カップ
分量は瓶の容量によって異なりますが、切ったとうがらしと
にんにくで瓶の1/3程度、そこに醤油を瓶のふちまで入れるのが目安量となります。
また、とうがらしは熟成した方が辛みが増すため、青よりも赤の方が辛みが強いです。赤とうがらしのみだと辛すぎてしまうため、今回のように赤と青の両方使うのがおすすめです。

【作り方】
1.赤・青とうがらしを水洗いし、キッチンペーパーなどで水気をしっかり取る。
2.赤・青とうがらしのヘタを取り、小口切りにする。にんにくはみじん切りにする。
 ※とうがらしを切る際は必ずビニール手袋をしてください。素手だと触れたところが火傷
  のようにヒリヒリしてしまいます。
3.瓶に切った赤・青とうがらしとにんにくを入れる。
4.3.に醤油を加える。
5.瓶の蓋をしっかり閉め、冷蔵庫に入れる。
6.1日寝かせたら、完成。
・時間が経つにつれ、醤油にとうがらしの辛みが移るため、1週間程経つととうがらしの辛みが減って、そのままでも食べられるようになります。
・使用する際は、清潔なスプーンで取り分け、1~2か月を目安に使い切ってください。

【使い方】
普通に醤油を使う感覚で冷ややっこにかけたり、まぐろなどのお刺身を漬ける「漬け」の調味液にも利用できます。また、肉や野菜を炒める時の味付けに使用すると、とうがらし醤油と油が合わさることで、とうがらし成分の吸収率が上がり、おすすめです。
他には、漬けたとうがらしとにんにくをご飯にのせると、美味しいご飯のお供にもなります。
辛みを強く出したい時は漬けたとうがらしごと、ほんのり辛みを出したい時は醤油のみを使用すると、辛み調節ができます。何にでも合う万能調味料なので、普段の醤油を使う感覚でぜひとうがらし醤油を使ってみてください。