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栄養コラム

きくいも

No.208

2021年4月1日

管理栄養士 田中希歩

いも類といわれると、じゃがいもやさつまいも、里芋といったものが思い浮かぶのではないでしょうか。この栄養コラムでも様々な「いも」について特集してきましたが、今月のコラムでは最近注目が高まっている「きくいも」についてご紹介いたします。
初めて耳にする方や、聞いたことはあるけどよく知らないといった方も多いと思いますが、特徴を知り、身近なものとして感じていただければと思います。

きくいもの産地と歴史

きくいもは、北アメリカ大陸東部から中部あたりが原産地とされており、その地域では重要な作物の一つでした。その後北アメリカに訪れたヨーロッパ人によって持ち帰られ、徐々に栽培作物としてヨーロッパ全土で利用されるようになります。
日本には江戸時代末期にヨーロッパ人によって伝えられたといわれ、はじめは家畜のえさとして利用されていたことから「豚いも」と呼ばれていた歴史もあります。秋になると菊に似た黄色い花が咲き、根の部分に芋のようなものができることから「菊芋(きくいも)」と名付けられました。
「放っておいても育つ」といわれるほど生命力が強く、第二次世界大戦時には、食糧難を救う代用食として活躍し、じゃがいもやさつまいもと並び、日本人の食生活を支えたとも言われています。しかし、戦後食が豊かになるにつれ、食べられる機会が減り、昔と比べて「きくいも」を知る人・食す人が減ってしまったというわけです。

きくいもの旬・流通

きくいもは秋に根の部分が大きくなり、春になると根から新しい芽が出てきてしまうので、収穫時期は、秋から芽が出る前までの期間です。冬は積雪などで収穫ができないため、市場には11月頃と3~4月頃に掘り出されたものが出回っています。
きくいもは生命力が強く、全国各地で野生化したものが見られるほか、岐阜県や長野県、熊本県では地域復興の一環として栽培が行われています。加工されていないきくいもは、道の駅などの農産物直売所などで販売されていたり、ネット通販で購入することができます。

きくいもの栄養

①イヌリン

きくいもが近年注目されている理由がこの「イヌリン」という成分です。食物繊維には「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」がありますが、イヌリンは水溶性食物繊維にあたります。イヌリンはたまねぎやにんにく、ごぼうなど身近な食材にも含まれていますが、特に多く含んでいるのがきくいもです。

 イヌリン含有量(%)
たまねぎ2~6%
にんにく9~16%
ごぼう3.5~4%
きくいも15~20%
(参考:外科と代謝・栄養54巻3号 論文Inulin:イヌリン 浅桐公男)

イヌリンの効能としては以下のものがあり、研究が進められています。

1)腸内環境の改善
不溶性食物繊維は、体内では消化されず大腸まで運ばれ、便のかさを増したり、腸壁を刺激し便秘を予防するなどの働きをしますが、水溶性食物繊維であるイヌリンは、ビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌のえさとなり、細菌自体の増殖を促すことで、腸の調子を整えます。

2)食後の血糖値上昇を緩やかにする、天然の「インスリン」
食物繊維であるイヌリンは、体内の糖を吸着してそのまま便として体内へ出したり、糖の吸収を緩やかにするなど、血糖値の改善が期待されます。さらに、血糖値を下げる働きを持つ重要なホルモン「インスリン」は、腸内細菌によって生成された短鎖脂肪酸が細胞を刺激することで分泌が促されるため、腸内細菌のえさとなるイヌリンは、インスリン分泌の一端を担っていると言えます。

②低糖質・低カロリー

いも類は糖質が多く、血糖値を上げやすい食品ですが、きくいもは他のいも類と比べて糖質が少ないのも魅力の一つで、他のいも類より血糖値を上げにくいと言えます。また、きくいもは水分量が多く、低糖質であるため、100gあたりのカロリーが低いことも特徴です。


(日本食品成分表2015版(七訂)より)

きくいもの食べ方

健康効果が期待されるきくいもですが、整腸作用の効果の現れ方が人によって違い、お腹が緩くなることもあるので、1日に卵大1個(50~60g)程度の量を目安に食べるのがおすすめです。食べ方としては、じゃがいもや里芋と同じように、皮をむいて水にさらし、あく抜きを行ってから調理をします。生鮮品として見かけることは珍しいですが、用途は豊富で調理方法によって様々な食感に変わるのも面白い点です。見かけた際はぜひ購入してみてほしいと思います。

・生で食べる
スライスするか、千切りしたものを、水にさらしてしっかりとあく抜きすれば、生のまま食べることができます。シャキシャキとした食感をしており、きゅうりやレタスなどお好みの野菜と合わせるとサラダとしての1品になります。

・揚げる
スライスしたものを油でカリッと揚げると、ポテトチップスのような仕上がりになります。また、細切りして片栗粉をまぶし、天ぷらの衣をつけるとかき揚げに。サクッとした食感が味わえます。

・炒める・煮る
煮物や、炒め物、汁物など、じゃがいもと同じように調理をすることができます。加熱するとじゃがいものようなホクホクとした食感になります。

・漬ける
薄切りにして味噌や醤油、梅酢などに漬け込むことで、保存がきき、漬物のように食べることができます。岐阜県などでは、地域の特産品としてきくいもの味噌漬けが定着しています。

・加工する
天日干しにして乾燥させることで、収穫時期が短いきくいもを年中楽しむことができ、商品としても販売されています。また、お茶や粉末などの様々な加工品があり、きくいものほとんどが健康食品向けに乾燥や粉末状に加工されています。

おすすめレシピ

きくいもを使ってつくるピザを紹介します。ピザ生地を一から作ることはとても大変ですよね。生地の代用としてじゃがいものレシピはよく見かけますが、じゃがいもより低糖質なきくいもを使うことで、ヘルシーに仕上がります。

【材料】  直径16㎝1枚分

・きくいも      120g(卵大2個)
・粉チーズ      大さじ1     ・・・(a)
・片栗粉       大さじ1     ・・・(a)
・ピーマン      1/2個
・ソーセージ     2本
・コーン缶      1/2缶
・ピザ用チーズ    適量
・ケチャップ     大さじ2
・オリーブオイル   大さじ1

【作り方】

①きくいもをスライサーなどで薄くスライスし、水につけて5分ほどあく抜きする
②ピーマンは種をとって5mm幅に輪切りにし、ソーセージは5mm幅に輪切りにする
③ボウルに①と(a)を入れ、よく混ぜ合わせる
④フライパンにオリーブオイルを熱し、③を隙間なく広げて焼く
⑤焼き色がついてきたらひっくり返し、ケチャップを塗る
⑥ピザ用チーズ、②、汁を切ったコーン缶を上にのせる
⑦フライパンのふたを閉め、チーズが溶けるまで蒸し焼きにする

【ポイント】

通常のピザ生地だと約600kcalのところ、本レシピのきくいもでの代用では、約470kcalで、通常のピザ生地を使用するよりカロリーを抑えられます。