7月になると富士山が山開きをし、各地域で本格的に登山シーズンが始まります。いざ登山をすることになったとき、どのような食事をしたらよいのか、またどんなものを持っていったらよいか、悩むことはありませんか。登山は長時間歩き続けるため、消費エネルギー(カロリー)は意外に多く、疲労を溜めずに長時間体力を保持して山を登るには、食事がとても大切です。
今回は登山時の食事についてご紹介します。登山機会があれば、是非参考になさってみてください。
登山時の消費エネルギー
登山は、数時間で登り下りできる山から、1日または数日かけていく山もあり、標高やコースによって登山時間は様々です。登山はゆっくり歩くため、さほど消費エネルギーは多くないように感じますが、荷物の重さや道の勾配などによって負荷がかかり、ランニングをしたときとほぼ同等の消費エネルギーになります。また、登山は最低でも登下山(往復)で2時間程度は歩き、活動時間が長いことが多いため、ランニングなどの運動よりもエネルギー消費が大きくなる場合があります。
例えば、体重70kg男性が5時間程度の登山コースを歩く場合の消費量は約1950kcal、基礎代謝(※1)と合わせると1日約3480kcalとなり、普段より約1.3~1.5倍ものエネルギーを消費します。登山時はエネルギー消費が増えるので、食事も消費エネルギーに見合った量を摂取する必要があります。
(※1) 呼吸や体温調節、体内の臓器の活動など生命維持のために使われているエネルギーで、
安静にしていても消費されるエネルギーのこと。
登山時で最も重要な栄養素は「糖質」
運動などの活動で消費するエネルギーは、食事から補っています。エネルギーに変わる栄養素は「糖質」「脂質」「たんぱく質」とありますが、中でも「糖質」が最も早くエネルギーに変わります。登山のように長時間活動している場合は、特に糖質が枯渇しやすく、糖質が不足するとエネルギーがつくれなくなり、疲れを感じやすくなります。これを登山用語では「シャリバテ」といい、登山ではよく起こりやすい疲労です。そのため、糖質が不足しないようにすることがとても重要で、登山中はこまめに補うことが疲労を感じさせずに登るコツです。
水分補給の重要性
登山時は、長時間発汗し続け、多量の汗が出るので、水分補給は欠かせません。体には約60~70%の水分が含まれ、このうち1%水分が失われると喉の渇きを感じ、2%水分が失われると動きが鈍くなったり、疲労を感じるといわれています。体内の水分損失量が増えると、血流が悪くなり、酸素や栄養を上手く運べなくなり、だるさや吐き気、痙攣などの脱水症状を起こし、重症になると命に関わる危険性もあるので、水分補給はこまめにとることが大切です。
また、多量に汗をかくと一緒にナトリウムなどのミネラル類も多く失われます。そのため、水ばかり補給していると体内のナトリウム濃度が薄まり、体は濃度のバランスを保とうとするため、より水分を排泄し脱水しやすくなります。水だけではなく、スポーツドリンクやイオンウォーターを適宜にとると、脱水が防げます。
登山時の食事ポイント
各タイミングによっておすすめの食事内容が異なります。4~5時間程度の低山ハイキングを想定した食事のポイントをご紹介します。記載のカロリーや量は目安になります。とりきれない分は、体脂肪などがエネルギーに変わるので無理にとる必要はありません。
【登山前日まで】 食事内容を整え、3食しっかり食べる
食事で補いきれないエネルギーは、体の中に蓄積されている体脂肪や筋肉などがエネルギーに変わります。そのため、登山が決まったらエネルギーを貯蔵するためにも食事には気をつけましょう。ご飯などの炭水化物を中心に、肉や魚、卵、大豆製品、野菜などのおかずのある食事にすると良いです。
また、普段欠食することがある場合は、3食きちんと食べるようにし、特に登山時は朝食が欠かせないので、朝食を食べる習慣をつけましょう。
【朝食(登山前)】 糖質中心の食事でゆっくりエネルギーに変わるものを
朝食は、登山を開始する前の食事なので、エネルギーに変わりやすい糖質を中心にとるようにしましょう。糖質の中でも、ゆっくりエネルギーに変わる糖質と、すぐにエネルギーに変わる糖質がありますが、朝食では登山開始までエネルギーを貯蓄するために、前者の方をとることがおすすめです。また、登山は早朝から活動し始めることが多く、食べてすぐ行動することもあるので、胃腸に負担をかけない食べ物にしましょう。カツサンドやクリームパン、揚げ物などの油っぽいものなど油脂が多く含まれているものは、消化に時間がかかり胃腸に負担をかけるので、控えると良いでしょう。
ゆっくりエネルギーに変わる糖質・・・ごはん、パン、麺類
【昼食(山頂または長い休憩時)】 腹持ちがよくスタミナが持続するものを一緒に
昼食までに使ったエネルギー補給として、お昼もご飯やパン、麺類の糖質は必ず食べるようにしましょう。糖質類にプラスして、疲労回復のためにたんぱく質やクエン酸も合わせてとると良いでしょう。糖質のみよりたんぱく質を一緒にとると筋肉の疲労回復が早まり、腹持ちもよくなります。お昼もこの後の活動に備えて胃腸に負担をかけないように油脂が多いものはさけることをおすすめします。
おすすめのたんぱく質が多い食品・・・ゆで卵、ささみ、魚肉ソーセージ、ハム など
クエン酸多い食品・・・梅干し、レモン砂糖漬け、クエン酸ドリンク など
【夕食(下山後)】 疲労回復のための栄養補給を
下山後もご飯などの糖質やたんぱく質を合わせてとりましょう。可能であれば下山後なるべく早いタイミングで、少しでも糖質とたんぱく質を補給しておくと疲労回復が早まります。
夕食は、疲労が残っている状態なので、消化で負担をかけないように、焼肉や唐揚げなど脂っぽいものは避けたいところですが、食べる場合は、脂身の少ない肉を選んだり、量を少なくして魚、豆腐などの大豆製品などをとるようにするのがおすすめです。また登山中にとることが難しい野菜などを取り入れ、不足したビタミンやミネラルの補うと良いでしょう。
【行動食(登山途中)】 即効性のある糖質類でエネルギー補給を
山を登っているとき、または下山しているときに食べる食事を行動食といいます。歩いている際は常にエネルギーが消費されるため、長時間の登山の場合は次の食事までにエネルギーが不足してしまいます。特に糖質が最も早くエネルギーに変わるので、1~2時間程度を目安にこまめに補給する必要があります。このときの糖質は、ご飯やパンなどのゆっくりエネルギーになる糖質ではなく、素早くエネルギーに変わる糖質の食べものがおすすめです。
素早くエネルギーに変わる糖質
・・・あめ、チョコ、クッキー、ようかん、ドーナツ、せんべい、ドライフルーツ など
※チョコやクッキー、ドーナツなどは油が多いので、食べ過ぎには注意。
[行動食の目安カロリー・量]
1時間に100~200kcal程度。
あめ(約5~10個)、チョコ(3~9個)、大きめクッキー(約1~2枚)
あめやチョコなどは、1個が小さくカロリーが100kcalに満たないため、こまめに1個ずつ食べると良いです。
【水分補給について】 喉が渇く前にこまめな水分補給を
登山時は、水とスポーツドリンクなどを合わせて、2L以上の水分を摂取しましょう。
[水分補給のタイミング]
・朝、登山前に250~500ml補給する
・登山中は15~20分ごとに1口~200ml程度の水分をこまめにとる
・食事の前中後でも水分を補給する
※ 一度に多く飲みすぎると胃腸に負担をかけるので、少量をこまめにとりましょう。
おすすめレシピ
行動食でいろんな食品を持っていこうと思うと荷物が多くなり、嵩張りますよね。そこで糖質を多く含み、手軽に運べて食べやすい行動食レシピをご紹介します。1個で約170kcalあり、糖質量は約30gあるので1時間おきに摂取すると筋肉に必要なエネルギーが与えられます。
●スペシャルバー
【材料】(約5個分)
・コーンフレーク(プレーン) ・・・2.5カップ(約60g)
・レーズン(干しブドウ) ・・・大さじ3(約30g)
・アーモンドスライス ・・・大さじ1.5(約15g)
・マシュマロ ・・・1/2袋(約60g)
・バター ・・・大さじ1.5(約18g)
・はちみつ ・・・大さじ5
【下準備】
大きめのバットにラップを敷いておきます。※クッキングペーパーでも良いです。
【作り方】
1.コーンフレーク、アーモンドスライスを袋に入れ、軽くたたいて砕きます。
2.1にレーズンを入れて、混ぜます。
3.鍋にバター、マシュマロを入れて火にかけます。※焦げやすいので火は弱火にしましょう。
4.マシュマロが溶けてきたら、2とはちみつを入れて素早くかき混ぜます。
5.全体が混ざったら、下準備したバットに流し入れ、平にならします。
6.粗熱をとった後、バットの上にもラップをかぶせ、冷蔵庫に入れます。
7.冷蔵庫に10分程入れて固まったら、棒状に5等分に切り分けて完成です。
※一つずつラップやキッチンペーパーに包むと、持ち運びしやすく食べやすいです。
※コーンフレークは、他のシリアル類に変えても構いません。チョコ味などにしてもおいしいで
す。フルーツグラノーラなどシリアル以外にフルーツが入っている場合は、コーンフレークと
レーズンを合わせた重量分を用意して作って下さい。
※レーズン以外にマンゴーやバナナなどのドライフルーツに変えたり、数種類混ぜたりしても
違う味が楽しめて、おいしくいただけます。