9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続きますね。暑さで疲れた体に甘酒を飲むのはいかがで
しょうか。甘酒はお米から作られる日本伝統の発酵飲料で、「飲む点滴」とも呼ばれ、古くから利用されている栄養価の高い飲み物です。お正月など冬に飲むイメージが強いかもしれませんが、江戸時代から夏バテ予防として飲まれてきました。今月は甘酒の特長をご紹介します。
甘酒の歴史
古墳時代にはすでに飲まれており、日本書紀に登場する「醴酒(こざけ・れいしゅ)」や「天甜酒(あまのたむさけ)」、「粕湯酒(かすゆざけ)」、「一夜酒(ひとよざけ)」が起源と言われています。「甘酒」という名で一般に幅広く広がるのは江戸時代です。甘酒売りが1杯6~8文(現在だと195~260円程度)で売り歩いていたと言われています。夏は暑さで病気になる人も多く、死亡率が高かったことから、庶民の栄養補給として広まりました。武士の間では悪酔い防止のため、酒席の前に甘酒を飲むことが「武士の作法」とされていたそうです。江戸時代後期には四季を問わず売られるようになりますが、俳句の世界では今でも甘酒の季語は「夏」になっています。
甘酒の製法と種類
「甘酒」という名前から、甘酒は「酒」の分類かと思われがちですが、実は食品分類上(*)では「アルコール1%未満の清涼飲料水」になります。甘酒は大きく分けて「麹(糀)甘酒」と「酒粕甘酒」の2種類ありますが、ご存知でしょうか。それぞれ製法が異なりますのでご紹介します。 *食品表示法
麹甘酒
「米麴」と水を55~60度で発酵させて作ります。「米麴」は、蒸したお米に麹菌を繁殖させた
ものです。日本の伝統的な食文化に欠かせないみりん・味噌・日本酒なども、米麹を発酵させることで造られています。お米のでんぷんが麴菌に含まれるアミラーゼという酵素によりブドウ糖に分解されるため、砂糖を使用しなくても自然な甘味があり、クセが少ないのが特徴です。アルコールや砂糖を含まないため、赤ちゃんや妊娠・授乳中の女性も飲むことができます。
酒粕甘酒
「酒粕」をお湯に溶かして砂糖を加えて作ります。「酒粕」はその名の通り日本酒を作る過程で生まれる副産物で、水と米麴に酵母菌を加えて発酵させてできた”もろみ”から日本酒を搾って残った固形物です。麹菌と酵母菌の2つの発酵の力でとても栄養価が高く、日本酒特有のふくよかな香りと深いコクがあるのが特徴です。酒粕そのものには甘味がないため、砂糖を加える必要があります。酒粕には微量のアルコールが含まれていることがあるため、子どもやアルコールの弱い方は加熱してアルコールをしっかり飛ばすなど注意が必要です。
甘酒の健康効果
ヨーグルトや味噌と同じように、発酵食品である甘酒の成分にはさまざまな健康効果があると
いわれています。
① 疲労回復効果
お米のでんぷんが麹菌のアミラーゼによって分解されてできるブドウ糖は、消化に負担をかけずに体内で素早くエネルギーに変わります。また、ブドウ糖をエネルギーとして利用するために
必要な ビタミンB群も豊富に含まれているため、疲労回復に繋がると言われています。さらに、お米のたんぱく質が麴菌のプロテアーゼによって分解されてできるアミノ酸には、人体で作ることができない必須アミノ酸(20種類)が全て含まれ、その中の分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)にも疲労回復効果があると言われています。
ブドウ糖・ビタミンB群・アミノ酸は点滴の主な成分となることから、甘酒は「飲む点滴」と呼ばれています。
② 便秘解消
お米由来の食物繊維は、水分を吸収して便のカサを増やし便通の改善に効果があります。また、お米のでんぷんが麴菌に含まれるアミラーゼという酵素によりオリゴ糖が作られます。オリゴ糖は腸内の善玉菌であるビフィズス菌のエサになるため、腸内環境を整える効果があります。
③ 免疫力アップ
甘酒の必須アミノ酸であるアルギニン・グルタミンには免疫力アップの効果もあると言われています。アルギニンは免疫細胞を活性化する働きがあり、グルタミンは病原菌の侵入を防ぐ胃腸粘膜の細胞合成を活性化します。
また、食物繊維やオリゴ糖によって腸内環境を整えることも免疫力アップに繋がります。
④ 美肌効果
甘酒に豊富に含まれるビタミンB群は、皮膚や髪・爪などの細胞の再生に関与するため肌の調子を整えます。それだけでなく、麹菌に含まれるコウジ酸はメラニンの生成を抑え、シミやくすみを防ぐ効果があり、デフェリフェリクリシンと呼ばれるたんぱく質の一種は皮膚のバリア機能の維持・改善を担っていると言われています。さらに、フェルラ酸という抗酸化物質も含まれており、細胞の新陳代謝を促して肌の老化を防ぎます。甘酒を飲み続けることでニキビやクマなどの肌トラブルが改善したという
研究結果も出ているそうです。
これらの効果も他にも、体を温める効果や血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げる効果、
血圧を下げる効果もあるなど、様々な健康効果が報告されています。
甘酒の取り入れ方
体にとって嬉しい成分がたくさん含まれている甘酒を、より効果的に飲む方法をご紹介します。
■ 朝食時に
甘酒に多く含まれるブドウ糖は脳の主なエネルギー源です。朝食時に飲むことで素早く脳のエネルギーとなり、しっかり目覚めることができます。また、糖の代謝を向上させるビタミンB1の
相乗効果により、脳が活性化され集中力アップに繋がります。
■ 人肌に温めて
甘酒を温めて飲むと、腸などの消化管が温められて消化吸収を促進します。また、手作りの甘酒の場合は生きた酵素が残っている場合があります。温めると酵素の働きが活発になりますが、60度以上にすると酵素が失活してしまうため温めすぎには注意しましょう。
■ 夏場の熱中症対策として
厚生労働省では、熱中症予防には0.1~0.2%の塩分を含んだ飲料の摂取が推奨されています。
甘酒の塩分濃度は約0.2%のため、夏場の水分補給としても利用できます。
<注意点>
● 甘酒は栄養価が高いですが、100mlあたり75kcalと他の飲料に比べて高カロリーです。1日コップ1杯(200ml)までにしましょう。また、糖分の量が多いため、血糖値が高めの方は間食や夕食後に飲むのは控えましょう。
● 麴甘酒なのか、酒粕甘酒なのか、表示をよく見て購入しましょう。最近は麴甘酒と酒粕甘酒をブレンドした甘酒も売られているため、自分好みの甘酒を見つけてください。
甘酒の簡単アレンジ
甘酒に加えるだけですぐにできるアレンジ方法をご紹介します。甘酒との割合は1:1が目安ですが、ご自身の好みに合わせて調整してみてください。朝食や小腹がすいた時の間食としておすすめです。
■ 甘酒+豆乳
甘酒と合わせることで豆乳の風味がまろやかになります。また甘酒のみでは不足
するたんぱく質を補うことができ、豆乳に含まれるリノール酸やイソフラボンには血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げる効果があります。
■ 甘酒+ヨーグルト
ヨーグルトの酸味が加わって飲みやすくなります。たんぱく質を補うだけでなく、ヨーグルトの乳酸菌の効果も加わり腸内環境を整えます。お好みできなこやフルーツを加えるとさらに栄養価がアップします。
■ 甘酒+コーヒー
朝はコーヒーだけ、という方は砂糖の代わりに甘酒を足してみるのはいかがでしょうか。砂糖よりも素早く体のエネルギーになり、コーヒーに含まれるカフェインの効果も加わって頭をスッキリさせてくれます。