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栄養コラム

こづゆ

No.221

2022年5月2日

管理栄養士 瀨谷理絵

日本には、各地域の産物を活用し風土にあった郷土料理がたくさんあり、歴史や文化・食生活とともに受け継がれています。私の出身である福島県にも、喜多方ラーメンやいかにんじんなどの郷土料理がたくさんあります。今回はその中の一つ「こづゆ」をご紹介します。


こづゆとは

福島県は本州の北部、東北地方の南部に位置しており、北海道、岩手県に次いで3番目に広い県です。南北に連なる阿武隈高地と奥羽山脈を境に西から「会津」「中通り」「浜通り」に分かれ、それぞれが異なる気候・風土を持っています。

「こづゆ」は会津地方の郷土料理で、干し貝柱で出汁をとり、豆麩(まめふ)・にんじん・椎茸・里芋・ぎんなん・きくらげ・糸こんにゃくなど7種類の具材を入れて薄味に仕立てた汁物で、「農山漁村の郷土料理百選(※)」に選定されています。

こづゆの由来は、小さな器を示す「小重(こじゅう)」が訛った、また「小吸物(こすいもの)」が転化したなど諸説あります。「重」や「汁」が転じて「じゅう」と呼ぶ地域もあるそうです。こづゆに似た「ざくざく」という料理もありますが、煮干しでだしを取っているという違いがあり、食材をざくざくと大きく切るところが名前の由来とされています。こづゆよりも庶民的な料理と位置付けたり、同じものとしたりと、地域によって変化しています。

※農山漁村の郷土料理百選
全国の郷土料理を紹介することにより、農山漁村にある身近な料理を再認識して、広く国民に関心を高める機会となるよう、2007年に農林水産省が選定したものです。その他、秋田県の「きりたんぽ鍋」や山梨県の「ほうとう」などがあります。
(農林水産省 郷土料理百選パンフレット 参照)


こづゆの歴史

江戸時代後期、参勤交代時に会津藩藩主が食した、海産物を贅沢に使う武家料理「重(じゅう)」がルーツとされています。江戸時代後期から明治初期にかけて会津藩の庶民のごちそうとして広まったそうです。具材は「割り切れない縁起のよい数字」の7種類または9種類の奇数種類を用いています。

こづゆは、伝統工芸の会津塗りの小平椀(おひらわん)に盛られ、朱塗りの小皿(手塩皿・てしおざら)に分けて食べるのが作法といわれています。そのため、相手に何杯もお代わりして食べてもらうという習慣があります。当時、干した貝柱は大変貴重な食材でした。海の幸・山の幸をふんだんに使った具だくさんのこづゆは、客人を精いっぱいもてなそうとする会津の方のおもてなしの心が込められています。現在も冠婚葬祭や正月に欠かせない料理となっていますが、近年では学校給食や日常でも食されるようになりました。


その他 会津若松の郷土料理

■ニシンの山椒漬け
身欠き(みがき)ニシンと山椒の葉を重ね合わせ、しょうゆと酢、お好みで隠し味に酒と砂糖を入れ、2~3週間漬けたもの。(「農山漁村の郷土料理百選」に選定されています)
■棒鱈煮
戻した棒鱈(真鱈を干して、棒のように硬くなったもの)を、酒・醤油・みりんで8時間程度煮込んだ甘露煮。
■しんごろう
うるち米を半つきにして団子状にしたものを竹串に刺し、じゅうねん
みそ(甘めの味噌にすりつぶしたエゴマを混ぜ合わせたもの)を塗って炭火で焼いたもの。


こづゆの特長

①干し貝柱を使用している

流通網が発達していなかった時代、会津地域では新鮮な海産物の入手は難しいものでした。そのため、北前船(きたまえぶね)と呼ばれる、江戸時代中期~明治30年代にかけて大阪と北海道を日本海周りで往復し、商品を売り買いしながら結んでいた商船によって、北海道から新潟港を経由して運ばれる乾物が中心でした。北前船によって干し貝柱や身欠き(みがき)ニシン・棒鱈などが入荷され、会津の食事に利用されました。

<干し貝柱について>
■どんな食材なのか
主にホタテガイの貝柱をゆでてから天日干しした乾物です。ホタテガイの他にイタヤガイやタイラギなども使用されることがあります。中華料理ではフカヒレ・干しアワビと並ぶ高級食材です。
■だしの取り方(干し貝柱5個の場合)
ボウルか密閉容器に干し貝柱と浸る程度の水を入れ、ラップをするか蓋を
して冷蔵庫にひと晩放置します(8~12時間程度)。
※急いで戻す場合:ボウルに干し貝柱が浸る程度のお湯を入れて5~10分
程度放置し、その後ラップをして500Wで2分30秒加熱します。

②うま味を利用することで減塩効果がある

「うま味」とは、5つの基本味(甘味・酸味・塩味・苦味)のひとつで、料理の美味しさを生む大切な役割を果たしています。代表的な「うま味」の物質として、グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸などが知られています。うま味成分は単体でも効果がありますが、組み合わせることで相乗効果が生まれ、うま味が何倍にも強くなることが分かっています。

こづゆのだしとなる干し貝柱にはグルタミン酸とイノシン酸が含まれており、干し貝柱自体がうま味の相乗効果を持っています。さらにこづゆの具の椎茸やきくらげにはグアニル酸とグルタミン酸、里芋やにんじんにはグルタミン酸が含まれるなど、こづゆはだしと様々な具材のうま味が影響しあった汁物となっています。

また、うま味を利用することで塩分を30%減らしても美味しく食べることができるという研究データもあります。たとえば、市販品や外食で食べる汁物1杯の塩分量は約2.0g前後ありますが、こづゆは約1.5g程度と、25%減塩できます。この差(塩分0.5g)はたくあん2切れ分に相当します。単純に調味料を減らすだけでは味が物足りなくなりますが、食材のうま味を利用することで美味しく減塩することができます。


図1)一般的な汁物とこづゆの塩分量

参考値)下記の材料にて算出
・味噌汁(豆腐、わかめ)
・こづゆ(麩、干し貝柱、きくらげ、にんじん、里芋、糸こんにゃく、ぎんなん、干し椎茸)
 (八訂:日本食品標準成分表2020年版 より)

③食物繊維が豊富

こづゆの具には、こんにゃく・きのこ類(椎茸・きくらげ)などの食物繊維が豊富に含まれた食材を使用することが多く、またとても具沢山な汁物のため、副菜の一品としても利用できる料理です。

日本人の食事摂取基準(2020年度版)において、食物繊維摂取目標量は、18~64歳で男性21g/日以上・女性18g/日以上と設定されています。令和元年国民健康・栄養調査における一日あたりの食物繊維摂取量(総量)は、20歳以上の男女平均で18.8gでした。男性は約2g不足しているということになります。欧米においては1日あたり24g以上の摂取で心筋梗塞や脳卒中、2型糖尿病、がんなどの発症リスク低下が観察されるとの研究報告があることから、さらに積極的摂取が勧められる食品成分です。

市販品や外食の一般的な味噌汁(豆腐・わかめ)の食物繊維は約1.1gに対して、こづゆ1杯分の食物繊維は約3.7gです。汁物をこづゆのような具沢山のものに置き換えると、不足している食物繊維を補えます。汁物の野菜やお浸しなどの加熱した野菜は、カサが減ることでより多く摂取することができるため、ぜひ、具沢山の汁物を食事に取り入れてみましょう。


図2)一般的な汁物とこづゆの食物繊維量
※使用材料は、図1の参考値と同様


レシピ

こづゆは食材や味付けはシンプルですが、干し貝柱・干し椎茸・きくらげなどの乾物を水で戻す、里芋を下茹でするなど、通常は手間のかかる料理です。そこで普段でも作りやすいよう、ホタテの水煮缶・お好みのきのこで代用し、里芋は下茹でせずに作るレシピをご紹介します。ホタテの水煮缶は干し貝柱と比較するとうま味は少ないですが、顆粒だしを使用してうま味を追加しています。

【材料(2~3杯分)】 
・ホタテ水煮缶               1缶
 ※干し貝柱の場合は10g(2個程度)
・里芋                   2個
・にんじん                 1/3本
・お好みのきのこ(椎茸、しめじ、舞茸など) 50g
・糸こんにゃく               1/4袋
・豆麩(白玉麩や手毬麩でも可)       20個
<A>
・水                    300ml
・顆粒だし                 小さじ1
・薄口しょうゆ               大さじ1
・料理酒                  大さじ1
 ※お好みでぎんなんの水煮(5~6個)を加えると彩りが良くなります

【作り方】
① ホタテの水煮缶は汁と中身を分けておく
② 里芋・にんじんは皮を剥き、どちらも1㎝程度の厚さのいちょう切りにする 
③ 椎茸は軸を取って薄切りにし、しめじ・舞茸は食べやすい大きさにほぐしておく
④ 糸こんにゃくは沸騰したお湯でさっとゆで、水気をよく切り3㎝程度の長さに切る
⑤ 豆麩は水で戻して水気を切る
⑥ 鍋に<A>とホタテの水煮缶の汁を入れて火をつけ、②③④を入れてにんじんが軟らかく
  なるまで煮る
⑦ ホタテと⑤を加えてさっと煮て、器に盛って完成(ぎんなんがあればここで加える)

【アレンジ】
● 最後に水溶き片栗粉でとろみをつけると、温かさが持続するため、寒い冬にはおすすめ
  です。
● 水菜や山菜を入れても彩りが良くなります。他にも旬の野菜も取り入れるなど、自分なりの
  こづゆを作ってみてください。